2007年04月01日
2005年の日本映画に「県庁の星」という作品があります。織田裕二と柴崎コウの主演で、県庁のエリート公務員である織田裕二演じる「県庁さん」が、県政の目玉企画である民間企業との人事交流研修プログラムで地方のスーパーに出向くところから始まります。
スーパーのスタッフは特にやる気があるわけでもなく、普通に平和な毎日をその日暮で過ごそうという人たちばかり。そこへありとあらゆるスキル(技術)を持った県庁さんが赴任するわけですから、それはもう改革したいところだらけなわけです。人の動くラインを考えて商品の展示を入れ替えてみたり、1日の出来事をきっちり報告書にまとめたり、指示系統を確認したり、それはもう引っ掻き回すことになります。ところがそのスーパーにはそれまでそんなこと全くしてませんから、スタッフは県庁さんを迷惑に思います。
ある日。レジでキャッシュカード払いにしたお客さんが、カードの支払いが遅れていて、カードの使用停止になっていました。県庁さんは、カードが使えないのはそのお客さんの責任だと、このカードは使えません、と切り出します。そこへ県庁さんの教育係にされちゃった柴崎コウが割って入って、「すみません、こちらの機械が故障しているみたいです・・」と客に謝ります。お客様に恥をかかせてはいけないというサービス心ですが、県庁さんにはまったく理解できません。
このエリート公務員、映画で見れば滑稽に描かれていますが、実際に存在すると思いますし、特に歯科医師にはこういうタイプが多いんじゃないかと思われます。歯科医師も学歴を積んでいますし、多くの患者さんを診療するためには合理化も必要です。治療もなあなあよりもきっちりしていたほうが良いに決まっていますから。当院でも医療者の動きや流れを合理化、単純化、標準化して無駄や無理のない診療室にしようとTQM(Total Quality Management)などの試みをしていますので、私もどちらかと言うと自分が織田裕二になったような気持ちで映画を見ていました。顔も少し似て・・ないですけど(笑)
例えば、むし歯や歯周病で抜歯したほうが良い歯があったとします。無理に残すとあとで痛みが出たり腫れたりしやすい歯で、早めに抜けばダメージを最小限で食い止められるし、かかる医療費も少なくて済む、という場合、歯科医師は抜歯が合理的だ、と5秒もあれば計算できます。ところが歯一本でも患者さんの思い入れはそれぞれです。痛むとわかっていてもどうしても抜きたくない歯だったり、今は抜きたくないという時期的なこともあるでしょうし、過去に抜いて痛い思いをしたと言う恐怖心から来ることもあるでしょう。ここで両者の間に意見の食い違いが生じます。
さて・・。映画ではその後、県庁さんはそれまでうまく行っていたデータに基づいた方法論でスーパーの改革に挑み続けるのですが、その都度辛酸を舐めさせられます。見かねた柴崎コウが「人の心はデータじゃわからない」、とばかりにデートに誘って街角の消費者の行動をウォッチングします。そこで県庁さんは県庁では学べなかったことに気付くのです。
では、データなど県庁で学んだことは社会では役に立たないのか、というともちろんそんなことはありません。最後にスーパーのピンチを県庁さん流の作戦でうまく切り抜けていきます。県庁さんにはスーパーのやり方が必要だし、スーパーにも県庁のやり方が必要だったのです。
これとまったく同じことは診療室でも当てはまりそうです。歯科医師は医科の理論だけではすべてを治せるわけではないですし、患者さんも気持ちにそぐわない治療もやらねばならない時もあるでしょう。時にはデータも必要だし、時には患者さんの気持ちを尊重しないといけない場面もあるでしょう。問題はそこに信頼関係があるかどうか、納得して治療を受けてもらえているか、そして医師と患者が一緒の目的を持って治療に臨んでいけるか、だと思います。
病院潰しと言っても過言ではないような医療抑制行政の中、歯科医院も含む病院の運営は以前より厳しく、より効率化が求められています。より無駄を省き、合理化が要求されています。それが患者さんの不利益につながることになっては本末転倒です。経費は削れたとしても、コミュニケーションの時間は削らないようにしたいものです。
投稿者 fujix : 2007年04月01日 08:11
