2007年07月28日
 ■  清水一行の歯科医師小説

経済小説でお馴染みの清水一行氏の短編集「副社長自殺」のなかに「怪文書」という話があります。これが珍しく歯科界の話であります。厚生省の歯科管理官の接待や歯科材料屋との癒着に関する怪文書が届けられるという話なのですが、これがなかなかリアルです。もっともどこまでリアルなのかは私には知る由もありませんけど。講演会の際に材料屋さんのブースが並びますが、流石に現在では場所取りに裏金が舞うことは無いでしょうね。話はだんだん核心に・・迫らず逸れてくるんでちょっと物足りない終わり方です。

投稿者 fujix : 07:22
2006年09月18日
 ■  黒地の絵 松本清張

読書の秋シリーズ。新潮文庫の松本清張作品「黒地の絵」より同名の短編を。

舞台は直方市ではなく小倉南区城野です。おそらく現在の陸上自衛隊城野分屯地がそこなんだろうと思いますが、米軍キャンプがあったようです。どこからともなく送られてきて、どこへか知らず去っていく米軍兵隊たちが、1950年のある日事件を起こします。集団脱走した黒人兵が、小倉祇園の喧騒の中、民家に侵入しその家の妻を乱暴するのです。夫は復讐に立ち上がりますが、日本の警察は外国兵に対し無力です。なにもできぬまま翌年の1951年、朝鮮戦争の戦禍が悪化し、大量の米軍の死体が門司港から運ばれてきます。腐乱した死体を処理するのに1体800円が支払われました。

そんな大量の死体から歯型を調べ、台帳の記載と照合して氏名を捜索する役割として歯科医師が登場します。歯科医師が見るのは歯牙のみでしたから、外国人兵隊の刺青は客観的に見ています。外人は刺青の絵柄に鳥類を好んで使います。黒人兵だとカンパスが黒地なので、刺青の原始的な雰囲気が奇妙に感じられます。ここで歯科医師は復讐の心が折れていない夫と偶然に出会うのですが、事件のことは知らされません。そして歯科医師はついに夫が復讐を遂げたあとの黒い死体を目にするのでした・・・。なぜその死体がそんなことになっているかを知らぬままに・・。

対象が死体となりても復讐心は消えず、といったところでしょうが、私がこの話を取り上げたのは歯科医師が出てくるからだけではありません。実は私の祖父はこの話の時期からは遡りますが、この話の近所で歯科医院を開業していました。米軍キャンプに歯牙鑑定に行ったという記録までは残っていませんが、兵器庫の近くで軍人さんたちがたくさん祖父の歯科医院を訪れていたようです。当時の祖父の生活の一部を垣間見たような印象を受けるのです。




投稿者 fujix : 10:14
2006年03月01日
 ■  13階段 高野和明 講談社文庫

刑務官というお仕事をご存知だろうか?刑務所や拘置所で、事故やトラブルのないように収容者の日常生活を監督し、生活指導や職業訓練指導などを行い、逃走したり証拠を隠滅したりすることを防止するとともに、罪を犯して収容された人を再び過ちを繰り返さないように更生させることである。ある刑務官と殺人を犯し服役し出所する元囚人がコンビを組み、一人の死刑確定人の無罪を捜査する。世に探偵ものは数あれど、この作品に出てくる探偵役ほど強烈な設定は初めてだ。
トラブルに巻き込まれ結果的に相手を殺してしまった元囚人のその後の家族の経緯や、出所後被害者の家族に慰謝するシーン。捜査のあまり進まない前半では今までスポットの当てられることのないエピソードで物語を引っ張っていく。そしてもう一つキーになるのは死刑執行をする刑務官である。死刑執行に立ち会うまでのつらい時間をリアルに描いているのだが、その刑務官が始めて執行に立ち会うまでの間に思い出すのは、幼い頃の歯科医院の待合室である。看護婦に呼ばれて診療室に入る恐怖の瞬間を死刑執行とダブらせているのだ。「殺さないでくれ」と哀願する死刑囚の首に縄をかけ、ボタンを押して落ちていく死刑囚の姿がその瞳に焼き付けられて以来、彼が熟睡することはなくなるのであるが、死刑と歯の治療は同じイメージなんだなと思うと、なんだか私も今日は眠れそうに無い。

もう一つ。死刑執行を命令する法務大臣は、内閣改造時、つまり辞める前に命令書にサインするらしい。彼はこれを「歯の治療と一緒」と表現している。「気の進まないことはできるだけ先延ばしにする。で、後がないとわかったら、一気に片付ける。」というわけだ。手遅れになる前に治療に行きましょう!

というわけで物語自体は秀逸なミステリーなのだが、なんとなくブルーな気分である(T-T)H16.9.27

 ■  青の炎 貴志祐介 角川文庫

主人公が殺人を犯す際、経穴(ツボ)と銀歯に電流を流し、心室細動を起こすという方法をインターネットで発見する。これを実行した際に、「ジュール熱」が発生し、熱で膨張した銀歯が外れてしまい、結局これが発覚の元になるのである。(ジュール熱=導体に電流が流れた時、熱が発生する。ジュール熱Q= IVt)。
 で、実際に銀歯が熱で膨張して外れることがあるかというと、おそらくないと思われる。ただし、この話の中で、殺された被害者はどうしようもない無法者で、乱杭歯や歯槽膿漏がある他、治療費を安くするために安物の「銀のみ」の歯が入っていることになっているから、ありえない話ではない。(実際は金やパラジウムといった金属が含まれています。が、多分無理でしょう)他には接着するセメントの溶解ということも考えられそう。
 主人公が虫歯がなく無心に歯を磨くところが描かれていて、刑事が君は歯医者に行ったこともないんだろう?と詰問するところとか、伏線もうまく張られていて、作品の高い完成度は誰もが認めるところであり、こういう細かいところに目をつけるのは職業病でしょうか??H14.11.23UP

 ■  ひまわりの祝祭 藤原伊織 講談社文庫

何かを伝える信号のように虫歯がずきりと痛んだ時、突然まわりが騒々しくなる!主人公秋山秋二は「一万羽の蜂が口の奥で羽音を鳴らし」(むし歯の痛み)ながらもゴッホのひまわりを巡る争奪戦に巻き込まれ、「卵の殻よりさらに硬い何かが壊れていく音」(虫歯で歯がかける音)を聞きながらも、事件に立ち向かい、アイデンティティーを回復していくのであった。ハードボイルドの主人公は甘党でもいいのか?という疑問を見事解決した作者の力量に拍手(笑)
 ところで、その後歯医者に行ったのだろうかと心配してしまうのは、余計なお世話かな。

 ■  純情可憐殺人事件 赤川次郎 講談社文庫

 ここでは歯医者は被害者の役。つまり殺されちゃうってこと。セリフもない。誰ですか、ざまみろなんて言ってるのは^^;
タイトルの「純情可憐」は歯科医の奥さんを表していますが、一般に歯科医の奥さんのイメージってそうなんでしょうか?違うような気もする。

 ■  亜愛一郎の逃亡 泡坂妻夫 創元推理文庫

 第三話に「歯痛の思い出」収録の短編集。大学病院での歯の治療の待ち時間に事件を解決してしまう亜愛一郎と、苦しんだだけの刑事のお話。
あらゆるところに笑える仕掛けがあって、面白かった。歯医者という舞台をここまで可笑しく演出した推理小説は他になかろう。
歯科関係者もそうでない人もこの一冊で泡坂妻夫の世界に!

 ■  依頼人がほしい パーネル・ホール ハヤカワ文庫

  ひかえめ探偵シリーズの第5弾。「わたしは歯がわるい」で始まるこの作品には水道水のフッ素化を「アメリカの水系を汚染しようという共産主義者の陰謀」だと思われていた1960年代のアメリカの姿や、すべての歯を金属製(クラウン)にしたら、もう悩むことはないと思っていたら歯周病に悩まされ、フラップ手術の費用を銀行ローンで払う主人公の姿をユーモア交じりで描かれてる。最初の何ページかは、そのまま保健相談に使えそう。面白可笑しい表現なので脅しのモチベーションにもならなさそうです。
この典型的な口腔破壊の例を元に予防を考えてみては如何?
 ちなみにここに登場する歯科医は 「これはひどいと宣告する顔がなぜか笑っているように見える」歯科医や、映画に出てくるような局所麻酔をご存知ないスパルタ人のサディストとしか表現されない。
本編も楽しい一冊!

 ■  左手に告げるなかれ 渡辺容子 講談社文庫

 第42回江戸川乱歩賞受賞作。
歯がトリックに使われたと言うわけではありませんが、ネタばれにならない程度に少々。とある登場人物が変装するときのテクニックとしてカツラ、眼鏡と並んで出てくるのが歯。
「人相を変えるテクニックにもいろいろあるが、前歯は大事でね。これひとつで印象ががらっと変わるものなんだ。」
前歯の虫歯をほったらかしてるアナタ!変身しませんか?

 ■  新宿鮫 大沢在昌 光文社文庫

新宿鮫シリーズに歯医者なんて出てたっけ?という方、1作目の新宿鮫をご覧下さい。銃密造の犯人を追い込む際に出てくる、ホモバーに出入りしていたパトロンの歯医者です。(ここでもイメージ悪い??)
ところで、主人公鮫島がその歯医者を尋ねる際にこんな描写があります。「入ってすぐが待合室だった。年代物のソファがふたつ壁にそって置かれ、巨大な火鉢が部屋の隅にある。長い間、使われた様子はなく、置き場所に困って放置されたという印象があった。」・・・・・これを読んだ歯医者の皆さん、自宅の使わなくなった家具を待合室に捨ててはダメですよ(笑)H12/11/2

 ■  歯と爪 B・S・バリンジャー 創元推理文庫

 1955年の作品。原題“The Tooth and the Nail" は「手段を尽くして」とか「必死になって」という熟語である。その2つが犯行現場から発見される(もちろん落ちているのは「義歯」)わけですが、ここにトリックが・・・!
裁判所(事後)と奇術師(事前)がだんだんリンクすると、そこに仕掛けられたトリックが・・・。本書は全てがトリック。当時としては奇抜な袋とじ、面白くなければ返品保証というのもトリック。誰が誰で、これは誰だ???
 裁判所の場面で証言をする一人に歯医者が登場!「歯が欠けていることが、彼の風貌を大変醜くしていた」から「歯が痛い」と訴える患者に義歯を入れることを考えた歯医者もまたトリックに!
 これを読んで何がなんだか??という方、是非手にとって。面白くなければ返金します。出版社が(本当)。H12/11/2

 ■  無制限 渡辺容子 講談社文庫

パチンコ業界の裏を描くミステリー。「確変」や「スーパーリーチ」など、専門用語が飛び交い、パチンコ好きの方、必読!女性に限り無制限コーナーに老婆に変装して打つ人が出てきたり、常連客の奇妙なライバル心や連帯感をうまく描いている。そして、裏ROMによるゴト師や、景品交換所の強盗、警察との癒着が絡んで・・・・・。
 おっとっと、「歯」の話でしたね^^ 主人公の再婚相手が歯科医師なんです。んで、歯科医師会の会合に「年配受けする地味めのネクタイ」を選んで欲しいと誘ったデート先で指輪のプレゼント。「僕は毎年、君の誕生日のたびに指輪をプレゼントしよう」なんて言ってる。ちなみにそんなことゆー歯医者の知り合い、僕には一人もいません。H13/3/24

投稿者 fujix : 06:58
 ■  皆月 花村萬月 講談社文庫

 切ない男心を描かせたらNo1、芥川賞作家の花村萬月の作品。二丁目の公衆便所でゲイに襲われて、前歯上下8本を折ってしまった主人公が、歯医者で義歯を選ぶ際のエピソード。
「医師は私が選択した入れ歯の色見本を一瞥して首を左右に振った。白すぎるというのだ。『みんな歯医者さんで差し歯をどのくらいの白さにしますかって訊かれると、たいがい自分の歯より白くしてしまう』 人はかのように自分をかいかぶるという見本のようなものだ」
 歯科には色彩学会というのもあって、歯の色には気を遣ってます。ハイ。(H13/3/24記)

 ■  ぢん・ぢん・ぢん 花村萬月 祥伝社文庫  H13/5/28

  物語のヒロインは、ここまで醜く書ききって良いのか、と思わず思ってしまうブスな女性です。姿かたちだけではなく、部屋も心も汚いのですが、主人公との出会いにより、少しづつ小奇麗になっていきます。
 そしてついに整形外科の門をくぐることを決心したヒロインは、そこで医師にこう言われます。「あなた、歯並びは綺麗だね。抜群だ。顔かたちでいちばん重要なのは、歯並びなんだよ。高貴な人が乱杭歯であったためしがない。いくら顔を綺麗に整えたって歯がイノシシのようでは無駄だってことだな。だいたい乱杭歯じゃ、いくら綺麗な顔をしたって下品なんだよ。貧乏くさいって奴だな」
 この医師の言葉に整形を決意しますが、そこには驚愕の結末が。。。!気になる方読んでくださいね。あ、悪書です。かなりの^^;ここで紹介するのを躊躇しました。良い子は読んではいけません。でも芥川賞受賞作家です。

 ■  神はダイスを遊ばない 森巣 博 新潮文庫

エッセイ編に入れたが、エッセイなのか、小説なのか、神のみぞ知るところ。オーストラリアを本拠地にカシノで賭博を続ける「わたし」と、美人ディーラーのミーガンの物語である。
 賭博場VIPルームに現れた「大口賭人(ハイローラー)」の「F」。メルボルンで歯科医院のチェーン店を経営するFはことあるごとにミーガンを誘ってきた。ある日、「F」は下品なスラングでミーガンを挑発し続ける。動揺したミーガンはついつい我を忘れ・・・。
 ここでも嫌なキャラですねえ。最後にわたしとミーガンに仕掛けられた大勝負がこの話のメインイベントなんですが、結末は・・書きたくない。同情するに値しないキャラなんですけどねえ。なんとなくこきおろすのは。。。同業者として忍びなかったりして・・。
 阿佐田哲也を超える賭博文学の最高峰と言われたこの作品、ギャンブル好きじゃなくても一度読んでみてください。

投稿者 fujix : 06:53
 ■  はみ出し銀行マンの「金持ちになれる人なれない人」講座 横田濱夫

おなじみはみ出し銀行マンシリーズ。最近は指南書っぽく仕上がっているが、初期の頃のどたばたも好きです。さて、題名が記すよう、お金持ちになれる人には一定のパターンがあるそうな。例えば休みの日に車のワックス掛けばかりしている人は金持ちにはなれないそうで・・・・。その中で最初にあげられているのが、「虫歯があったり、歯が汚かったりするか」もちろんそんな人はお金持ちになれない。すなわち、歯は一時的に手入れしても駄目で、長年の努力が必要であるから、続ける意志の強さがないと、貯蓄もできません。との事。また缶コーヒーを好むのも、高カロリーで肥満や虫歯の原因にしかならないといった指摘も。そ!まったくその通り!
 ところで、こういう本を読んで、しかも丁寧にHPに感想を述べている部類の人はお金持ちになれる人なのだろうか?悩む。

 ■  棚から哲学 土屋賢二 文春文庫

 「わたしは行列に並ぶのが嫌いだ。宝くじを買うのに並ぶのも嫌いだし、歯医者で長々と順番を待つのも嫌いだ。歯医者でわたしの順番がすぐ来るのも嫌いだ。」
書いているのはお茶の水大の哲学科の教授。文春文庫からはもう5冊目になるが、変わらぬテンションで絶対笑える保証します。
 無駄である作者(とその本)系の自虐ネタ。作者を尊敬しない助手ネタ。作者を大事にしない無駄遣いする妻ネタ。など、いくつか得意の落としどころパターンが存在するが「嫌い=歯医者ネタ」もその一つに含まれそうだ。この本の中に、「怖い病院」「怖くない病院」という話があって、日本の病院とイギリスの病院の比較をしている。曰く、日本の病院は怖いとのこと。反省する点が多々あったような気がするが、笑って読んでいるうちに忘れてしまった。是非手にとって私に教えてほしい。

 ■  もとちゃんの痛い話 新井素子 角川文庫

ゴールデンウィーク真っ最中に歯が痛み出した著者の悪戦苦闘の歯医者エッセイ。歯医者が開くまでの残り15時間をカウントダウンするところから始まります。
ここに登場する歯医者は優しいキャラで、「こんな腫れている所に麻酔注射を打つだなんて痛いこと、僕には出来ない!」なんて言っちゃう。
んで、ひたすら人が痛がるのを嫌がる人が何だって歯医者さんなんかになったんだろう。と不思議がる著者。
歯医者って、すべての職業の中でも、もっとも人が痛がる所を見なきゃいけない職業なんですね。
歯を抜くのが怖い怖いと言い続け、「では6秒で抜きましょう」と抜いた所7秒かかったと文句を言う旦那さんにも笑いましたが。

 ■  仮定の医学 清水ちなみ 幻冬舎文庫

ハゲてる人はスケベ?巨乳女は頭が悪い?など体にまつわる様々な疑問を体当たり取材するお笑いメディカルエッセイ。
ここに出てくる歯の話題で面白かったのを載せておきます。
「スーパーで売っている歯ブラシがでかい理由。それは歯磨き粉がいっぱいのっかるように。メーカーは歯磨き粉で商売しているのね。日本経済に余裕があるときは、歯磨き粉をちょこっとのっけたCMだったけど、今は端から端までしたたり落ちるようにのっかってる。心なしか、チューブの穴も大きいような??」
ですって。
ちなみに僕が持ってる単行本は作者のサイン入りです!
kateiigaku.jpg

 ■  大河の一滴 五木寛之 幻冬舎文庫

規則正しい生活は大事である。だけど、規則正しい生活だけでなく、不規則な生活を自分のリズムにすることもまた大事である。歯を磨くことは大事である。歯を磨くことも大事であるが、その前に自分の人間的な生活-ちゃんと生きがいを感じつつ生きていけるか、ということを振り返ってみるほうが、もっと大事なのではないか。(本文より)

 ■  エンピツ画のすすめ 風間完 朝日文庫

 タイトル通り、絵を描く人のための上達のヒケツです。エンピツ、消しゴム、用紙など道具に関することから、光と影、色の設定まで何気ないポイントが溢れています。
この中で「女性の顔について」という章がありますが、顔を上手く書くために以下の記載があるんです。
「口もとで大切なのは歯です。清潔で形よく列んでいることも大切なことですが、本人の気づかぬ以上に、顔の表情をつくる上で強烈な役割を果たしているといえます。モナリザの口もとから白い歯がこぼれていたら、たぶんあの絵の中に漂う神秘的な空気はかなり違ったものになっているに違いありません。」